怖い虫の話 「6.カメ虫の怖い話」

私が北区に住んでいた新婚当時,自宅の真向かいの朝鮮人が所有する 建物で改築工事がはじまりました。その朝鮮人に何を建てるのか聞いたら 「雑貨屋です」と答えたので安心しておりました。
地盤が弱いため工事の度に熱帯魚の水が水槽からこぼれるほど自宅が 揺れましたが,多少のことは我慢をしておりました。しかし、建物ができたと きアッと驚きました。朝鮮人が建てた建物は、雑貨屋ではなく事もあろうに” パチンコ屋”だったのです。私は,育児の為の環境が損なわれるため,そ の朝鮮人を「大嘘吐き!」と怒鳴りつけましたが後の祭りでした。

ちょうどその頃,新聞に西区西野の宅地の広告が入ってきました。広告に は小鳥や自然が描かれており都会の雑踏の中に住む者にとって,誰でも 飛びつきたくなるような宅地でした。私は,家族を連れてその宅地を見に西 区西野に行きました。
宅地内は電気,ガス,上下水道が完備,そして、巾8メートルの道路と水銀 灯が整備され,北側は紅葉の山々,南側は公園,その向こうは発寒川の 清流というように環境も抜群でした。

私は思いました。「札幌市内でこのような自然に恵まれた環境の物件は他 にはないだろう,いや今回この機会を逃したら永久に物件に恵まれない」と 判断し購入することになりました。一番喜んだのは退職を目前にした父親 でした。結局,実弟の分と2区画購入することとなりました。

私は西区西野に自分の城を築くために邁進しました。長い間お世話になっ た北区町内の方々とお別れするのは辛かったのですが,それよりも自分 の城を建てるほうを優先しました。これでも私は,北区町内では重宝されて いたのです。


「東にテレビが壊れて困っている人がいたら,行って直してあげ,西にラジ オが壊れた人がいたら,もう真空管がないから直らないと言い,南に喧嘩 があれば,怪我をするからやめなさいという、北に人手が無くて困っている 人がいたら行って手伝ってあげる」等々と色々な思い出がありました。

私は、毎日のように銀行や建築会社に足を運び,辛くて途中で挫折しそう になりましたが半年後,ようやくピッカピカの新居が完成しました。私は,お お,これこそ,”汗と涙と借金の結晶である”,と一言つぶやきました。

ところが新居に入ろうとしたとき新しい畳の匂いに混じって異様な臭いがす るのです。猫でも死んでいるのかなと畳と板をはぐって床下を見ても何も見 あたりません。二歳になろうとしている長女は異臭を嫌がって,なかなか家 に入ってこないこともありました。そして数日が過ぎ去りました。

これは一体何の臭いだろうかと家中を探していると何か顔にぶつかってく るものがあるのです。「なんだハエか」と思いましたがハエにしては飛び方 がおかしいのです。蛍光灯にとまった所をよく見たらカメ虫でした。私はカメ 虫が異臭を発散させるとは思いませんでしたので,そのままにしておきまし た。そしてまた数日経ちました。


カメ虫がどんどん増えるに伴って異臭もひどくなるのです。私はひょっとした らと思いカメ虫を一匹捕まえました。すると茶色の液体を放出して逃げてい きました。私はその液体の臭いを嗅いだら,オェー,言葉では表現ができ ないほど酷い臭いなのです。これで異臭の原因は掴めましたがカメ虫の退 治方法が分かりません。さし当たって,たくさんのカメ虫を一気に退治する べくバルサンを焚くことにしました。

部屋はバルサンの煙で一寸先見えなくなり,これでカメ虫もお陀仏だろうと 思い数十分後ウキウキしながら窓を開けました。するとビックリ!。カメ虫 が元気に飛び回っているのです。私はガクっとし,今度はハエ叩きで1匹ず つ叩きつぶしていきましたが異臭を発散しながら死んでいくのには処置が ありませんでした。そしてカメ虫退治の対策を見いだせないまま月日が経 過していきました。

やがて隣の町内から、カメ虫の異臭に耐えきれず新築した家をあきらめ引 っ越した人もいるという噂も聞こえてきました。カメ虫は生きていても,また 死んでも異臭を発散するので,”異臭を発散する前に退治”するか,”発散 させないようにして退治”すればよいということが分かりました。

ここからはカメ虫との知恵比べであります。私が用意した道具は,どこにで もあるガムテープで,そのガムテープを15センチ位に切り取ります。動作 が鈍く壁や床に止まっているカメ虫をガムテープに貼り付けます。そして貼 り付いたカメ虫を潰さないようにガムテープで包みます。この時,臭いが漏 れぬよう隙間を開けないようにするのです。それをゴミ箱に捨てます。これ でカメ虫を退治することができます。最近は小型の掃除機を使ってカメ虫を 吸い取り、ビニール袋に入れて捨てております。ただしこの方法は掃除機 に異臭が溜まってしまうという欠点があります。

その後,カメ虫は,減少の一途をたどってはおりますが、秋口ともなれば家 屋の隙間から入り込み、時と場所をわきまえずに放つ異臭は家族全員の 悩みの種となっているのです。 

【おわり】




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