怖い虫の話 「7.バッタの怖い話」

皆さんは、”自分の影が勝手に動きだした”という経験がありませんか。大 抵の人は、そんな馬鹿なこと信じられないと思うでしょう。しかし、まさか?、 ということが現実に起こるものです。

西区西野の新しい家に移った翌年、私は庭づくりに励みました。庭木は親 戚から頂いたり以前住んでいた北区の家から移植したので結構庭らしくな りましたが、どうも花が足りません。そこで黒土を10トンほど入れて花畑を つくり、私が好きな桔梗や水仙などの花を植えました。それでも少し寂しい ので庭の中央に池を作ることにしました。

地盤は岩盤ですのでスコップでは掘れません。私は物置からツルハシを持 ってきて掘り始めました。ところが地面に刺さったツルハシを抜こうとして柄 をバキッと折ってしまいました。弟にも助っ人を頼み、数日後ようやく直径 約4メートル深さ最大1メートルの池が完成しました。

さっそく池に水を張り金魚を入れましたが何か物足りません。そこで燈篭の 形をしたフィルター付の循環ポンプを設置したところ、水が燈篭から滝のよ うに勢い良くでてくるので、金魚も元気良く泳ぐようになりました。仕上げは 水草を浮かべて終了です。


実弟と二人で万歳をして月見酒で楽しみました。あのように元気だった父 親は腎臓を患い透析を受けていたので好きな酒も飲めなくなっておりまし た。
そのとき、ぴょんぴょん跳ねる小さな虫がおりました。弟は、「バッタか?」と 一言つぶやきました。それが今回の騒動の始まりだったのです。

それから月日が経過したある日、勤務が終わって帰宅途中、自宅まであと 2分というときクルマの前にトンボの大軍のようなものが出現しました。クル マのウィンドウにドンドンぶつかって来るのです。私はトンボ?を殺さないよ うにゆっくりとクルマを進めました。しかし、ようく見ると、それはトンボでは なくバッタでした。バッタは住宅地の道路を占拠するように群れをなして飛 んだり跳ねたりしていました。

夕食後、それを見ながら父親に「佃煮にでもしましょうか」と冗談を言ってお リました。その時はまだバッタから害を受けるとは思っていなかったので す。

翌年の春の事でした。庭木や野菜そして花の葉を見ると、虫に食われて穴 だらけでした。私は、毛虫でもいるのだろうかと思いながら周りを見渡しま したが、どこにもおりませんでした。多少、気になったのは梅の葉にゴミの ようなものが沢山ついていたので払おうとしたら風もないのに煙のようにゴ ミのようなものが消えてしまう事です。何故だろうと思い、葉をよく見ると体 長が僅か5ミリくらいの茶色のバッタが梅の葉を食べているのです。更に調 べて見るとビックリ!。それは梅の葉だけではなく花や野菜のありとあらゆ る葉を食べ尽くしていたのです。

私は、どうしようかと思いながら道路に出て自宅の庭を眺めました。夕陽が 山に隠れようとしておリ私の影が長く伸びていました。その時、自分の影が 二つあることに気がつきました。すると小さいほうの影のようなものがザワ ザワ、ザワっと移動したではありませんか。
私は、ウワーと驚きながら影のようなものの動きを眺めていると、少しづつ 移動を始め庭のほうに入っていきました。影に見えたのはバッタの大軍だ ったのです。


これから私はバッタとの戦いが始まります。
製薬会社に勤めている実弟に大量の殺虫剤を注文し、そして金物屋さん から草刈りガマを買ってきました。殺虫剤が届いた数日後、私は白衣を着 てマスクをかけ長靴を履いて右手に草刈りガマ、左手に殺虫剤を持ってバ ッタとの戦いに出陣しました。これからバッタに対し電撃作戦を決行しま す。
以前から調査しておいたバッタのたまり場に対し殺虫剤による空爆を加え 害虫の発生原となっている空き地の雑草をカマで刈りとリました。

一定の成果を上げた数時間後、もう太陽が沈んで辺りは暗くなっていまし た。一休みしているとき、どこかのオバさんが小犬を散歩させながらこちら の方に向かって歩いてきました。そしてその小犬は私の方にチョロチョロと 寄ってきたのです。犬が好きなので撫でようとしたときオバさんが、「チビ ー、危ないからこっちへおいで!」と悲痛な叫びを上げました。
どうやらそのオバさんは白衣に長靴姿の私を見て犬を捕獲している保健所 の関係者と勘違いしたようです。

バッタ軍団との戦いは数ヵ月に渡って行なわれました。私が通った後には バッタが、バッタバタと倒れ死骸の山が築かれました。その結果、私の圧 倒的勝利に終わりました。その後バッタは消え去り、私の武勇伝だけが語 り継がれていったのです。

【おわり】




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