怪奇シリーズ(第2話)「気配」

今回は、少々怖い話になりますので本当にトイレに行くのが怖くなるかも知 れません。

さて、どなたでも人の気配を感じることがあるでしょう。自分のそばに誰か がいると感じるのは何か考え事をしている時に多いようです。時には人の 気配ではなく犬や猫の気配を感じることもあります。しかし1日に数回も同 じ人の気配を感じることは、まずないでしょう。

今回も私が入院していた病院での話です。私の病室の向かい側に洗面所 があり、そこから男子用トイレと女子用トイレおよび身障者用トイレに分か れておりました。それぞれのトイレには、1日の尿の量などを調べるための パックが各病室の患者の数だけぶら下げてありました。
パックには患者の氏名が書いているため、間違って他人のパックに自分の 尿を入れ違えることはありません。しかし、膀胱が大きな患者には尿を採 るための容器の大きさが500ccと小さいため溢れてしまうこともあります。 また掛けてあるパックがなくなった場合は、その患者が退院したか、あるい は死亡の場合ですのですぐ分かるのです。

さて、入院してから2週間経ったある日の朝食後、採尿のためトイレで用を 足しているときです。青白い顔をした患者が私の隣の便器で用を足してい るような気配を感じたのです。しかし周りを見渡しても誰もおりません。私は 自分のパックに尿を移して病室に戻りました。
同日、午前のリハビリの後、小便をもようしてきたためトイレに行きました。 その時、またしても隣に誰かがいるような気配を感じましたが誰もおりませ ん。何かいやな予感がしたため、急いで病室に戻りました。


案の定、隣の病室の様子が何か慌ただしいのです。と、いうのは数人の医 者や看護婦が出たり入ったりしており、また患者の家族らしき人々が病室 の前にたたずんだり、うろついたりしているのです。中には涙を流している 家族の姿もありました。
私は隣の病室の患者の誰かが危篤状態だという事を察しました。トイレで 私が気配を感じたのは恐らくこの危篤の患者さんだったのかと思い、一応 納得しましたが冷や汗をかきました。しかし人の気配を感じるのは、これで 収まらなかったのです。

夜、就寝前にトイレに行ったのですが、やはり自分の隣に青白い顔をした 人の気配を感じたのです。私は、そそくさとその場を去り自分の病室に戻 り、一体何があったのかと思いながら布団に潜り込みました。もう夜中の1 1時をまわっておりました。その日もなかなか眠れず、うとうとしていたら今 度は反対側の病室が慌ただしくなりました。また誰かが亡くなったらしいこ とが分かりました。やけに死亡者が多い病院だなと思いましたが、今度は 自分かも知れないとは思いませんでした。

翌朝、トイレに行って尿を溜めるパックを見たら、私の隣に懸けてあった患 者のパックがなくなっておりました。やはり昨日、亡くなったのは、この患者 かと思い、一応これで安心してトイレに行けると思いました。

ところが、午後のリハビリが終了後、トイレにいって採尿していたら、また隣 の便器で用を足している患者の気配を感じました。私は周りを見て驚きま した。青白い顔をして立っている患者は、なんと自分と同じ顔をしているで はありませんか。その私と同じ顔をした患者の腹部を見ますと、縦一文字 に裂けていて胃が無いのです。そしてその患者は「胃潰瘍で胃を取ったら 楽になったよ」と話すのです。

私はビックリ仰天して逃げだそうとしても足が動きません。誰かを呼ぼうと しても声も出ないのです。その時、耳元で私を呼ぶやさしい声が聞こえた のです。
目を覚ますと看護婦さんが血圧を測りに来ていたのです。そうか夢だった のかと思いましたが、どこからどこまでが夢なのかは今でも分かりません。

おわり



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