怪奇シリーズ(第4話)「賀老橋」

私が子供の頃、母の実家はブナの木で有名な黒松内町(当時、黒松内村) にありました。
黒松内町はニセコ町(当時、狩太村)から車で50分くらいのところで、町の 中央を朱太川という大きな川が流れており夏から秋にかけて、サケやマ ス、ヤマベやアユそしてヤツメウナギなどが収穫できました。

市街地から2キロくらい離れたところの中里地区に賀老橋(がろうばし)とい う名の橋がかかっており、橋の上から朱太川を見ると子供たちの元気な歓 声が聞こえ、河原で魚を取ったり泳いだりして遊んでいました。賀老橋を渡 り坂道を少し上がったところに母親の実家がありました。町に出るときも近 所の家に行くときもこの賀老橋を渡って行きました。

当時は電気がなく照明はランプでおこなっており、夜になると、ほんのりとし た光が幻想的に居間を照らしていました。家は農家造りで玄関は広い土間 になっており、中央に長い廊下があり向かって右側に居間と子供部屋、左 側に寝室と座敷がありました。

トイレには居間と子供部屋の間の廊下を通って行きますが、薄暗くて気持 悪かったため、その前まで行っては用を足せないまま居間に戻り母親につ いて来てもらったのを思い出します。

ある夏の日も、私は賀老橋を渡って近くの知り合いの家に行こうとしたので すが、街灯がないため周りは真暗闇で、おまけにゲロゲロゲロゲロと耳を 裂くような沢山のカエルの声で薄気味悪く、途中で引き返したこともありま す。


賀老橋の反対側には砂崩れという場所があり、よく放牧している農耕馬が 崖から落ちて死んでおりました。また祖母が街に買い物に行くと言って家を 出たのですが、街に向かって歩いているつもりが、いつの間にか家に戻っ ていたそうです。祖母は狐に化かされたと言っていたのを思いだします。

更に賀老橋に関わる事件がありました。それは母親の一番下の弟の話で す。母親は妹が一人と弟が三人の五人兄弟でした。母親の弟ですので当 然、私の叔父にあたります。
当時はまだ叔父は小学生のやんちゃ坊主で、その賀老橋の上から野良ネ コを朱太川に投げ捨てたことがあったのです。その日から叔父の様子が変 わりました。
それは、毎日夜になると賀老橋から投げ捨てたネコの魂が乗り移ったかの ように寝室を歩き回ったり壁をよじ登ろうとするのです。

祖母は、叔父が何かの病気にでもかかったと思い病院で診てもらったよう ですが、特別異常はないと言われたそうです。しかしその後も毎晩、猫のよ うに部屋中を歩き回るため、今度は祈祷師の所に連れていきました。祈祷 師は「柳の枝を枕の下に入れて寝かせなさい」と言いました。祖母は、毎晩 叔父の枕の下に柳の枝を入れて寝かせました。すると、いつの間にか部 屋中を歩き回ったり壁をよじ登ろうとすることはなくなったと言うことです。

現在、賀老橋の上から朱太川を見ても、河原で遊ぶ子供達の姿はありま せん。ただ、川の流れる音だけが懐かしく聞こえてくるのです。

おわり



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